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neith. SATELLITE

Oct 2026

LAFORET JOURNAL by AWA ITO

VOL.4

この秋オープンした
ラフォーレ原宿のNEWショップに
注目の文筆家・伊藤亜和が訪店。
書き下ろしのエッセイと共にご紹介します。

「世界を創る、
飛び越える」

 この秋から、いくつかの新しい店舗を迎えてリニューアルするラフォーレ原宿に再び足を運んでみた。私はいよいよ、来月で30歳になる。生きていれば、時の流れに合わせて順番に歳を取るものだし、自分にもいつか20代の終わりが来るというのは当たり前のことである。しかし頭では解っていても、私はこの期に及んで、心の隅に「まさか私が」という思いを抱えていた。私の視線は「20代のうちにやっておかなければいけないこと」を探して、往生際悪くキョロキョロと動き回っている。誰よりも早く自意識過剰の海に溺れたせいで、私にはできなかったことがたくさんあったように思う。

 おい、聞いてるか。高校生あたりの私よ。今のうちにもっとしょうもないことをしろ。みんなとお揃いの小物を身につけるとか、長い時間並んでどデカいパンケーキを食べるとか、街中でだらしなく地べたに座ってみるとか、流行り言葉だけでほとんど効果音みたいな会話をするとか、そういうやつだ。若いうちにもっと、そういうことをやっておけばよかった、なんて29歳の私は思っています。今になってみれば、面白半分にそういうことをしてみたって、自分の何かが奪われるわけではないというのはよく解る。たぶん、その頃にだってなんとなく解っていたはずである。でもできなかった。それはつまらないプライドのせいでもあったし、歳を取るのと同じように「まさか私が」と、あらゆることに他人行儀でいたからでもあるかもしれない。

 ラフォーレの2階に完成した「neith. SATELLITE」の店舗は、想像していたような広い店構えではなかった。それなのに、黒一色でデザインされた気高い孤島のようなその場所は、フロアの一角でしっかりとした存在感を放っていて、前を通れば確実に立ち止まってしまいそうである。Neithとはエジプト神話に登場する女神の名前で、彼女は機織り機を使って世界の全てを創り出したのだという。その名を冠したブランド名とともに「人工衛星」「補助的な拠点」という意味合いのSATELLITEが付け加えられている通り、限られた空間の中でも十分にneith.の世界観が伝わる場所であることが、オリジナリティ溢れるアイテムのひとつひとつからうかがえた。

ブランド設立から5周年を迎えたneith.が、初の常設店をオープン。
ブランドを象徴するアイテムが並ぶ。

5周年記念のプリントを施したトップス¥16,500、手に取ったオーバルメガネ¥6,380、
カスタムニット帽¥13,200

 数種類のレースで繊細に形作られたブラウスを、手に取ってじっと観察してみる。とても好みのデザインだし、高級感がある。とりあえずこれを着てみよう。なんて、すっかり冒険しなくなった私の指は、自然と「30歳の自分が着てもおかしくなさそうな服」を選ぼうとする。neith.の服は年齢性別を問わず着用できるのだそうだが、問題は私自身の勇気のなさだ。手に取ったことがない洋服たちの狭間で狼狽える一方、私のわずかな好奇心は、少し遠くにあるゆったりとしたシルエットのセットアップに反応していた。パンツはいわゆる「腰パン」スタイルのようなデザインで、ウェスト部分には、まるで身につけている下着をわざと見せつけているような小さなリボンの装飾が施されていた。

 そういえば、腰パンには苦い思い出がある。子供の頃から手足が細長く、痩せ型の体型だった私は、当時流行っていた腰パンスタイルが絶望的に似合わなかったのである。みんながジャージのズボンをほとんど太ももの位置までズリ下げて歩いているのに憧れて、私も何度か同じように控えめに腰パンをしたことがあった。しかし、私の貧相な体型では、どうしてもみんなのような“ズンとしたワル感”は出せず、私はひどく惨めな気分でお行儀良くズボンをはき直したのだった。痩せていることが悩みだったなんて、嫌味に聞こえそうでなかなか言い出せなかったけれど、とても悔しかったことを憶えている。

 ラフォーレ原宿はいつも私に少しの試練とワクワクを与えてくれる。20代の終わりに、私はなんとか腰パンと仲直りしたい。勇気を出して、そのセットアップを着てみることにした。

 試着して真っ先に感じたのは、凝ったデザインの印象に反して、信じられないほど着心地が良いということだった。このパンツ、腰ではくものかと思ったら、実は普通にはいただけで腰パンに見えるという、超テクニカルなアイテムだったのである。この表現で伝わるか全く自信がないが、ホーンテッドマンションで最初に案内される八角形の部屋のような感じで、絵が下に伸びていると思いきや、実際には部屋自体が上に伸びている状態に近い。パンツが下がっているのではなく、下着(に見える部分)が上がっているのだ。実際には普通にはいているのだから、当然歩くのには苦労しない。落ち着かなさも、後ろめたさもない。私が私のまま、腰パンに受け入れられている。姿見の前に立ち、自分の重心が違和感なくズンと下がっている姿を見た。これが私のやりたかった腰パンだ。踊れもしないのに、踊りだしそうだ。その後もいくつかのアイテムを夢中で身につける。工夫が細部に張り巡らされたneith.の服は、もれなく私を私のまま受け入れてくれたのだった。

 「まさか私が」と思っていた世界は、私の世界と確かに地続きにあるのだと教えてもらったような気がする。私の少しの勇気によって、そして誰かの魔法のような御業によって、ふとした瞬間、新たな世界は創られる。

ローウエスト、ハイウエストボトム、ランジェリー風の3レイヤードデザイン。
スウェットパンツ¥28,600

試着したベルベットジャケット¥36,300、ベルベットパンツ¥28,600、
ランジェリーライクシャツ¥18,700

【 Carabinerレイヤード風フーディー&スウェットパンツ 】

「新しい色合いと新しいスタイルなのに心地良い。
まるで宇宙船のソファーに腰掛けて窓から月を見るような、そんな気分」
フーディー¥30,800、スウェットパンツ¥28,600、ニット帽¥5,280 ※価格は全て税込

ヴィンテージ風のツリー柄が大胆にデザインされたセットアップ。
カラビナは取り外し&付け替え可能。

neith. SATELLITE(2F)

neith. SATELLITE(2F)

ターゲット層を定めず「感性で人と繋がること」をコンセプトに掲げるneith.。これまでの定期的なPOPUPSHOPを経て、待望の常設店が実現。限定アイテム、リメイク、カプセルコレクションなど、実験的なプロジェクトを展開します。

SHOP INFO

PROFILE

伊藤亜和

1996年横浜市生まれ。文筆家。note掲載のエッセイ『パパと私』がSNSで話題となり注目を集める。著書に『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)など。ラジオやテレビ出演など幅広く活動。第19回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。最新刊は「現代の魔女」をドラマティックに描いたエッセイ集『魔女になりたい』(文藝春秋)。